《吾輩は猫である》

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吾輩は猫である- 第78部分


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己悉韦いrに巡(まわ)ってきて、すぐ志望通り取計ってくれるのさ。死骸かね。死骸はやっぱり巡査が車を引いて拾ってあるくのさ。まだ面白い事が出来てくる。……」

「どうも先生の冗談(じょうだん)は際限がありませんね」と枺L君は大(おおい)に感心している。すると独仙君は例の通り山羊髯(やぎひげ)を気にしながら、のそのそ弁じ出した。

「冗談と云えば冗談だが、予言と云えば予言かも知れない。真理に徹底しないものは、とかく眼前の現象世界に束俊护椁欷婆菽à郅Δ蓼模─螇艋茫à啶菠螅─蛴谰盲问聦gと認定したがるものだから、少し飛び離れた事を云うと、すぐ冗談にしてしまう」

「燕雀(えんじゃく)焉(いずく)んぞ大鵬(たいほう)の志(こころざし)を知らんやですね」と寒月君が恐れ入ると、独仙君はそうさと云わぬばかりの顔付で話を進める。

 。。



十一 … 19

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「昔(むか)しスペインにコルドヴァと云う所があった……」

「今でもありゃしないか」

「あるかも知れない。今昔の問睿悉趣摔ⅳ饯长物L習として日暮れの鐘がお寺で鳴ると、家々の女がことごとく出て来て河へ這入(はい)って水泳をやる……」

「冬もやるんですか」

「その辺はたしかに知らんが、とにかく貴賤老若(きせんろうにゃく)の別なく河へ飛び込む。但(ただ)し男子は一人も交らない。ただ遠くから見ている。遠くから見ていると暮色蒼然(ぼしょくそうぜん)たる波の上に、白い肌(はだえ)が模糊(もこ)として動いている……」

「詩的ですね。新体詩になりますね。なんと云う所ですか」と枺L君は裸体(らたい)が出さえすれば前へ仱瓿訾筏皮搿

「コルドヴァさ。そこで地方の若いものが、女といっしょに泳ぐ事も出来ず、さればと云って遠くから判然その姿を見る事も許されないのを残念に思って、ちょっといたずらをした……」

「へえ、どんな趣向だい」といたずらと聞いた迷亭君は大(おおい)に嬉しがる。

「お寺の鐘つき番に賄賂(わいろ)を使って、日没を合図に撞(つ)く鐘を一時間前に鳴らした。すると女などは浅墓(あさはか)なものだから、そら鐘が鳴ったと云うので、めいめい河岸(かし)へあつまって半襦袢(はんじゅばん)、半股引(はんももひき)の服装でざぶりざぶりと水の中へ飛び込んだ。飛び込みはしたものの、いつもと摺盲迫栅氦欷胜ぁ

「烈(はげ)しい秋の日がかんかんしやしないか」

「橋の上を見ると男が大勢立って眺(なが)めている。恥ずかしいがどうする事も出来ない。大に赤面したそうだ」

「それで」

「それでさ、人間はただ眼前の習慣に迷わされて、根本の原理を忘れるものだから気をつけないと駄目だと云う事さ」

「なるほどありがたい御説教だ。眼前の習慣に迷わされの御話しを僕も一つやろうか。この間ある雑誌をよんだら、こう云う詐欺師(さぎし)の小説があった。僕がまあここで書画骨董店(こっとうてん)を開くとする。で店頭に大家の幅(ふく)や、名人の道具類を並べておく。無論贋物(にせもの)じゃない、正直正銘(しょうじきしょうめい)、うそいつわりのない上等品ばかり並べておく。上等品だからみんな高価にきまってる。そこへ物数奇(ものずき)な御客さんが来て、この元信(もとのぶ)の幅はいくらだねと聞く。六百円なら六百円と僕が云うと、その客が欲しい事はほしいが、六百円では手元に持ち合せがないから、残念だがまあ見合せよう」

「そう云うときまってるかい」と主人は相変らず芝居気(しばいぎ)のない事を云う。迷亭君はぬからぬ顔で、

「まあさ、小説だよ。云うとしておくんだ。そこで僕がなに代(だい)は構いませんから、お気に入ったら持っていらっしゃいと云う。客はそうも行かないからと躊躇(ちゅうちょ)する。それじゃ月賦(げっぷ)でいただきましょう、月賦も細く、長く、どうせこれから御贔屓(ごひいき)になるんですから――いえ、ちっとも御遠懀Г摔霞挨婴蓼护蟆¥嗓Δ扦乖陇耸畠窑椁い袱恪:韦胜樵陇宋鍍窑扦鈽嫟い蓼护螭葍Wが極(ごく)きさくに云うんだ。それから僕と客の間に二三の問答があって、とど僕が狩野法眼(かのうほうげん)元信の幅を六百円ただし月賦十円払込の事で売渡す」

「タイムスの百科全書見たようですね」

「タイムスはたしかだが、僕のはすこぶる不慥(ふたしか)だよ。これからがいよいよ巧妙なる詐偽に取りかかるのだぜ。よく聞きたまえ月十円ずつで六百円なら何年で皆済(かいさい)になると思う、寒月君」

「無論五年でしょう」

「無論五年。で五年の歳月は長いと思うか短かいと思うか、独仙君」

「一念万年(いちねんばんねん)、万年一念(ばんねんいちねん)。短かくもあり、短かくもなしだ」

「何だそりゃ道歌(どうか)か、常識のない道歌だね。そこで五年の間毎月十円ずつ払うのだから、つまり先方では六十回払えばいいのだ。しかしそこが習慣の恐ろしいところで、六十回も同じ事を毎月繰り返していると、六十一回にもやはり十円払う気になる。六十二回にも十円払う気になる。六十二回六十三回、回を重ねるにしたがってどうしても期日がくれば十円払わなくては気が済まないようになる。人間は利口のようだが、習慣に迷って、根本を忘れると云う大弱点がある。その弱点に仱袱苾Wが何度でも十円ずつ毎月得をするのさ」

「ハハハハまさか、それほど忘れっぽくもならないでしょう」と寒月君が笑うと、主人はいささか真面目で、

「いやそう云う事は全くあるよ。僕は大学の貸費(たいひ)を毎月毎月勘定せずに返して、しまいに向(むこう)から断わられた事がある」と自分の恥を人間一般の恥のように公言した。

「そら、そう云う人が現にここにいるからたしかなものだ。だから僕の先刻(さっき)述べた文明の未来記を聞いて冗談だなどと笑うものは、六十回でいい月賦を生涯(しょうがい)払って正当だと考える連中だ。ことに寒月君や、枺L君のような経験の乏(とぼ)しい青年諸君は、よく僕らの云う事を聞いてだまされないようにしなくっちゃいけない」

 。。 



十一 … 20


「かしこまりました。月賦は必ず六十回限りの事に致します」

「いや冗談のようだが、実際参考になる話ですよ、寒月君」と独仙君は寒月君に向いだした。「たとえばですね。今苦沙弥君か迷亭君が、君が無断で結婚したのが穏当(おんとう)でないから、金田とか云う人に謝罪しろと忠告したら君どうです。謝罪する了見ですか」

「謝罪は御容赦にあずかりたいですね。向うがあやまるなら特別、私の方ではそんな慾はありません」

「警察が君にあやまれと命じたらどうです」

「なおなお御免蒙(ごめんこうむ)ります」

「大臣とか華族ならどうです」

「いよいよもって御免蒙ります」

「それ見たまえ。昔と今とは人間がそれだけ変ってる。昔は御上(おかみ)の御威光なら何でも出来た時代です。その次には御上の御威光でも出来ないものが出来てくる時代です。今の世はいかに殿下でも閣下でも、ある程度以上に個人の人格の上にのしかかる事が出来ない世の中です。はげしく云えば先方に権力があればあるほど、のしかかられるものの方では不愉快を感じて反抗する世の中です。だから今の世は昔(むか)しと摺盲啤⒂悉斡猡坤槌隼搐胜い韦坤仍皮π卢F象のあらわれる時代です、昔しのものから考えると、ほとんど考えられないくらいな事柄が道理で通る世の中です。世態人情の変遷と云うものは実に不思議なもので、迷亭君の未来記も冗談だと云えば冗談に過ぎないのだが、その辺の消息を説明したものとすれば、なかなか味(あじわい)があるじゃないですか」

「そう云う知己(ちき)が出てくると是非未来記の続きが述べたくなるね。独仙君の御説のごとく今の世に御上の御威光を笠(かさ)にきたり、竹槍の二三百本を恃(たのみ)にして無理を押し通そうとするのは、ちょうどカゴへ仱盲坪韦扦馕茫à─扦馄嚖雀傉筏瑜Δ趣ⅳ护搿r代後れの頑物(がんぶつ)――まあわからずやの張本(ちょうほん)、烏金(からすがね)の長範先生(ちょうはんせんせい)くらいのものだから、黙って御手際(おてぎわ)を拝見していればいいが――僕の未来記はそんな当座間に合せの小問睿袱悚胜ぁH碎g全体の呙碎vする社会的現象だからね。つらつら目下文明の傾向を達観して、遠き将来の趨勢(すうせい)を卜(ぼく)すると結婚が不可能の事になる。驚ろくなかれ、結婚の不可能。訳はこうさ。前(ぜん)申す通り今の世は個性中心の世である。一家を主人が代表し、一郡を代官が代表し、一国を領主が代表した時分には、代表者以外の人間には人格はまるでなかった。あっても認められなかった。それががらりと変ると、あらゆる生存者がことごとく個性を主張し出して、だれを見ても君は君、僕は僕だよと云わぬばかりの風をするようになる。ふたりの人が途中で逢えばうぬが人間なら、おれも人間だぞと心の中(うち)で喧嘩(けんか)を買いながら行き摺Α¥饯欷坤眰人が強くなった。個人が平等に強くなったから、個人が平等に弱くなった訳になる。人がおのれを害する事が出来にくくなった点において、たしかに自分は強くなったのだが、滅多(めった)に人の身の上に手出しがならなくなった点においては、明かに昔より弱くなったんだろう。強くなるのは嬉しいが、弱くなるのは誰もありがたくないから、人から一毫(いちごう)も犯(おか)されまいと、強い点をあくまで固守すると同時に、せめて半毛(はんもう)でも人を侵(おか)してやろうと、弱いところは無理にも拡(ひろ)げたくなる。こうなると人と人の間に空間がなくなって、生きてるのが窮屈になる。出来るだけ自分を張りつめて、はち切れるばかりにふくれ返って苦しがって生存している。苦しいから色々の方法で個人と個人との間に余裕を求める。かくのごとく人間が自業自得で苦しんで、その苦し紛(まぎ)れに案出した第一の方案は親子別居の制さ。日本でも山の中へ這入って見給え。一家一門(いっけいちもん)ことごとく一軒のうちにごろごろしている。主張すべき個性もなく、あっても主張しないから、あれで済むのだが文明の民はたとい親子の間でもお互に我儘(わがまま)を張れるだけ張らなければ損になるから勢(いきお)い両者の安全を保持するためには別居しなければならない。欧洲は文明が進んでいるから日本より早くこの制度が行われている。たまたま親子同居するものがあっても、息子(むすこ)がおやじから利息のつく金を借りたり、他人のように下宿料を払ったりする。親が息子の個性を認めてこれに尊敬を払えばこそ、こんな美風が成立するのだ。この風は早晩日本へも是非輸入しなければならん。親類はとくに離れ、親子は今日(こんにち)に離れて、やっと我慢しているようなものの個性の発展と、発展につれてこれに対する尊敬の念は無制限にのびて行くから、まだ離れなくては楽が出来ない。しかし親子兄弟の離れたる今日、もう離れるものはない訳だから、最後の方案として夫婦が分れる事になる。今の人の考ではいっしょにいるから夫婦だと思ってる。それが大きな了見摺い怠¥い盲筏绀摔い毪郡幛摔悉い盲筏绀摔い毪顺浞证胜毪坤眰性が合わなければならないだろう。昔しなら文句はないさ、異体同心とか云って、目には夫婦二人
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