《吾輩は猫である》

下载本书

添加书签

吾輩は猫である- 第76部分


按键盘上方向键 ← 或 → 可快速上下翻页,按键盘上的 Enter 键可回到本书目录页,按键盘上方向键 ↑ 可回到本页顶部!
に掻(か)い込んでひょろひょろと一枚岩を飛び下りて、一目散に山道八丁を麓(ふもと)の方へかけ下りて、宿へ帰って布団(ふとん)へくるまって寝てしまった。今考えてもあんな気味のわるかった事はないよ、枺L君」

「それから」

「それでおしまいさ」

「ヴァイオリンは弾かないのかい」

「弾きたくっても、弾かれないじゃないか。ギャ坤猡巍>坤盲皮盲葟帳欷胜い琛

「何だか君の話は物足りないような気がする」

「気がしても事実だよ。どうです先生」と寒月君は一座を見廻わして大得意のようすである。

「ハハハハこれは上出来。そこまで持って行くにはだいぶ苦心惨憺たるものがあったのだろう。僕は男子のサンドラ·ベロニが枺骄婴伟睿à耍─顺霈Fするところかと思って、今が今まで真面目に拝聴していたんだよ」と云った迷亭君は誰かサンドラ·ベロニの講釈でも聞くかと思のほか、何にも伲鼏枻訾胜い韦恰弗单螗丧椤ぅ佶恁摔孪陇烁w琴(たてごと)を弾いて、以太利亜風(イタリアふう)の歌を森の中でうたってるところは、君の庚申山(こうしんやま)へヴァイオリンをかかえて上(のぼ)るところと同曲にして異巧なるものだね。惜しい事に向うは月中(げっちゅう)の嫦娥(じょうが)を驚ろかし、君は古沼(ふるぬま)の怪狸(かいり)におどろかされたので、際(きわ)どいところで滑稽(こっけい)と崇高の大差を来たした。さぞ遺憾(いかん)だろう」と一人で説明すると、

「そんなに遺憾ではありません」と寒月君は存外平気である。

「全体山の上でヴァイオリンを弾こうなんて、ハイカラをやるから、おどかされるんだ」と今度は主人が酷評を加えると、

「好漢(こうかん)この鬼窟裏(きくつり)に向って生計を営む。惜しい事だ」と独仙君は嘆息した。すべて独仙君の云う事は決して寒月君にわかったためしがない。寒月君ばかりではない、おそらく誰にでもわからないだろう。

「そりゃ、そうと寒月君、近頃でも矢張り学校へ行って珠(たま)ばかり磨いてるのかね」と迷亭先生はしばらくして話頭を転じた。

「いえ、こないだうちから国へ帰省していたもんですから、暫時(ざんじ)中止の姿です。珠ももうあきましたから、実はよそうかと思ってるんです」

「だって珠が磨けないと博士にはなれんぜ」と主人は少しく眉をひそめたが、本人は存外気楽で、

「博士ですか、エヘヘヘヘ。博士ならもうならなくってもいいんです」

「でも結婚が延びて、双方困るだろう」

「結婚って誰の結婚です」

「君のさ」

「私が誰と結婚するんです」

「金田の令嬢さ」

「へええ」

「へえって、あれほど約束があるじゃないか」

「約束なんかありゃしません、そんな事を言い触(ふ)らすなあ、向うの勝手です」

「こいつは少し乱暴だ。ねえ迷亭、君もあの一件は知ってるだろう」

「あの一件た、鼻事件かい。あの事件なら、君と僕が知ってるばかりじゃない、公然の秘密として天下一般に知れ渡ってる。現に万朝(まんちょう)なぞでは花聟花嫁と云う表睿莵I君の写真を紙上に掲ぐるの栄はいつだろう、いつだろうって、うるさく僕のところへ聞きにくるくらいだ。枺L君なぞはすでに鴛鴦歌(えんおうか)と云う一大長篇を作って、三箇月前(ぜん)から待ってるんだが、寒月君が博士にならないばかりで、せっかくの傑作も宝の持ち腐れになりそうで心配でたまらないそうだ。ねえ、枺L君そうだろう」

 。。



十一 … 15

 小说
「まだ心配するほど持ちあつかってはいませんが、とにかく満腹の同情をこめた作を公けにするつもりです」

「それ見たまえ、君が博士になるかならないかで、四方八方へ飛んだ影響が及んでくるよ。少ししっかりして、珠を磨いてくれたまえ」

「へへへへいろいろ御心配をかけて済みませんが、もう博士にはならないでもいいのです」

「なぜ」

「なぜって、私にはもう歴然(れっき)とした女房があるんです」

「いや、こりゃえらい。いつの間(ま)に秘密結婚をやったのかね。油断のならない世の中だ。苦沙弥さんただ今御聞き及びの通り寒月君はすでに妻子があるんだとさ」

「子供はまだですよ。そう結婚して一と月もたたないうちに子供が生れちゃ事でさあ」

「元来いつどこで結婚したんだ」と主人は予審判事見たような伲鼏枻颏堡搿

「いつって、国へ帰ったら、ちゃんと、うちで待ってたのです。今日先生の所へ持って来た、この鰹節(かつぶし)は結婚祝に親類から貰ったんです」

「たった三本祝うのはけちだな」

「なに沢山のうちを三本だけ持って来たのです」

「じゃ御国の女だね、やっぱり色がい螭坤汀

「ええ、真扦埂¥沥绀Δ伤饯摔舷嗟堡扦埂

「それで金田の方はどうする気だい」

「どうする気でもありません」

「そりゃ少し義理がわるかろう。ねえ迷亭」

「わるくもないさ。ほかへやりゃ同じ事だ。どうせ夫婦なんてものは闇の中で愫悉护颏工毪瑜Δ胜猡韦馈R工毪算合せをしないでもすむところをわざわざ愫悉护毪螭坤橛嘤嫟适陇怠¥工扦擞嘤嫟适陇胜檎lと誰の悚悉盲郡盲茦嫟い盲长胜い琛¥郡罋荬味兢胜韦哮x鴦歌(えんおうか)を作った枺L君くらいなものさ」

「なに鴛鴦歌は都合によって、こちらへ向け易(か)えてもよろしゅうございます。金田家の結婚式にはまた別に作りますから」

「さすが詩人だけあって自由自在なものだね」

「金田の方へ断わったかい」と主人はまだ金田を気にしている。

「いいえ。断わる訳がありません。私の方でくれとも、貰いたいとも、先方へ申し込んだ事はありませんから、黙っていれば沢山です。――なあに黙ってても沢山ですよ。今時分は探偵が十人も二十人もかかって一部始終残らず知れていますよ」

探偵と云う言語(ことば)を聞いた、主人は、急に苦(にが)い顔をして

「ふん、そんなら黙っていろ」と申し渡したが、それでも飽(あ)き足らなかったと見えて、なお探偵について下(しも)のような事をさも大議論のように述べられた。

「不用意の際に人の懐中を抜くのがスリで、不用意の際に人の胸中を釣るのが探偵だ。知らぬ間(ま)に雨戸をはずして人の所有品を偸(ぬす)むのが泥棒で、知らぬ間に口を滑(すべ)らして人の心を読むのが探偵だ。ダンビラを畳の上へ刺して無理に人の金銭を着服するのが強盗で、おどし文句をいやに並べて人の意志を強(し)うるのが探偵だ。だから探偵と云う奴はスリ、泥棒、強盗の一族でとうてい人の風上(かざかみ)に置けるものではない。そんな奴の云う事を聞くと癖になる。決して負けるな」

「なに大丈夫です、探偵の千人や二千人、風上に隊伍を整えて襲撃したって怖(こわ)くはありません。珠磨(たます)りの名人理学士水島寒月でさあ」

「ひやひや見上げたものだ。さすが新婚学士ほどあって元気旺盛(おうせい)なものだね。しかし苦沙弥さん。探偵がスリ、泥棒、強盗の同類なら、その探偵を使う金田君のごときものは何の同類だろう」

「熊坂長範(くまさかちょうはん)くらいなものだろう」

「熊坂はよかったね。一つと見えたる長範が二つになってぞ失(う)せにけりと云うが、あんな烏金(からすがね)で身代(しんだい)をつくった向横丁(むこうよこちょう)の長範なんかは業(ごう)つく張りの、慾張り屋だから、いくつになっても失せる気遣(きづかい)はないぜ。あんな奴につかまったら因果だよ。生涯(しょうがい)たたるよ、寒月君用心したまえ」

「なあに、いいですよ。ああら物々し盗人(ぬすびと)よ。手並はさきにも知りつらん。それにも懲(こ)りず打ち入るかって、ひどい目に合せてやりまさあ」と寒月君は自若として宝生流(ほうしょうりゅう)に気 (きえん)を吐(は)いて見せる。

「探偵と云えば二十世紀の人間はたいてい探偵のようになる傾向があるが、どう云う訳だろう」と独仙君は独仙君だけに時局問睿摔祥v係のない超然たる伲鼏枻虺食訾筏俊

.co



十一 … 16

[。小^说)网)
「物価が高いせいでしょう」と寒月君が答える。

「芸術趣味を解しないからでしょう」と枺L君が答える。

「人間に文明の角(つの)が生えて、金米糖(こんぺいとう)のようにいらいらするからさ」と迷亭君が答える。

今度は主人の番である。主人はもったい振(ぶ)った口眨恰ⅳ长螭首h論を始めた。

「それは僕が大分(だいぶ)考えた事だ。僕の解釈によると当世人の探偵的傾向は全く個人の自覚心の強過ぎるのが原因になっている。僕の自覚心と名づけるのは独仙君の方で云う、見性成仏(けんしょうじょうぶつ)とか、自己は天地と同一体だとか云う悟道の類(たぐい)ではない。……」

「おや大分(だいぶ)むずかしくなって来たようだ。苦沙弥君、君にしてそんな大議論を舌頭(ぜっとう)に弄(ろう)する以上は、かく申す迷亭も憚(はばか)りながら御あとで現代の文明に対する不平を堂々と云うよ」

「勝手に云うがいい、云う事もない癖に」

「ところがある。大(おおい)にある。君なぞはせんだっては刑事巡査を神のごとく敬(うやま)い、また今日は探偵をスリ泥棒に比し、まるで矛盾の変怪(へんげ)だが、僕などは終始一貫父母未生(ふもみしょう)以前(いぜん)からただ今に至るまで、かつて自説を変じた事のない男だ」

「刑事は刑事だ。探偵は探偵だ。せんだってはせんだってで今日は今日だ。自説が変らないのは発達しない証拠だ。下愚(かぐ)は移らずと云うのは君の事だ。……」

「これはきびしい。探偵もそうまともにくると可愛いところがある」

「おれが探偵」

「探偵でないから、正直でいいと云うのだよ。喧嘩はおやめおやめ。さあ。その大議論のあとを拝聴しよう」

「今の人の自覚心と云うのは自己と他人の間に截然(せつぜん)たる利害の鴻溝(こうこう)があると云う事を知り過ぎていると云う事だ。そうしてこの自覚心なるものは文明が進むにしたがって一日一日と鋭敏になって行くから、しまいには一挙手一投足も自然天然とは出来ないようになる。ヘンレ仍皮θ摔攻俩‘ヴンソンを評して彼は鏡のかかった部屋に入(はい)って、鏡の前を通る毎(ごと)に自己の影を写して見なければ気が済まぬほど瞬時も自己を忘るる事の出来ない人だと評したのは、よく今日(こんにち)の趨勢(すうせい)を言いあらわしている。寝てもおれ、覚(さ)めてもおれ、このおれが至るところにつけまつわっているから、人間の行為言動が人工的にコセつくばかり、自分で窮屈になるばかり、世の中が苦しくなるばかり、ちょうど見合をする若い男女の心持ちで朝から晩までくらさなければならない。悠々(ゆうゆう)とか従容(しょうよう)とか云う字は劃(かく)があって意味のない言葉になってしまう。この点において今代(きんだい)の人は探偵的である。泥棒的である。探偵は人の目を掠(かす)めて自分だけうまい事をしようと云う商売だから、勢(いきおい)自覚心が強くならなくては出来ん。泥棒も捕(つか)まるか、見つかるかと云う心配が念頭を離れる事がないから、勢自覚心が強くならざるを得ない。今の人はどうしたら己(おの)れの利になるか、損になるかと寝ても醒(さ)めても考えつづけだから、勢探偵泥棒と同じく自覚心が強くならざるを得ない。二六
小提示:按 回车 [Enter] 键 返回书目,按 ← 键 返回上一页, 按 → 键 进入下一页。 赞一下 添加书签加入书架