《吾輩は猫である》

下载本书

添加书签

吾輩は猫である- 第67部分


按键盘上方向键 ← 或 → 可快速上下翻页,按键盘上的 Enter 键可回到本书目录页,按键盘上方向键 ↑ 可回到本页顶部!
「何がまあだ。分りもしない癖に」

「それでもそんな壺なら吉原へ行かなくっても、どこにだってあるじゃありませんか」

「ところがないんだよ。滅多(めった)に有る品ではないんだよ」

「叔父さんは随分石地蔵(いしじぞう)ね」

「また小供の癖に生意気を云う。どうもこの頃の女学生は口が悪るくっていかん。ちと女大学でも読むがいい」

「叔父さんは保険が嫌(きらい)でしょう。女学生と保険とどっちが嫌なの?」

「保険は嫌ではない。あれは必要なものだ。未来の考のあるものは、誰でも這入(はい)る。女学生は無用の長物だ」

「無用の長物でもいい事よ。保険へ這入ってもいない癖に」

「来月から這入るつもりだ」

「きっと?」

「きっとだとも」

「およしなさいよ、保険なんか。それよりかその懸金(かけきん)で何か買った方がいいわ。ねえ、叔母さん」叔母さんはにやにや笑っている。主人は真面目になって

「お前などは百も二百も生きる気だから、そんな呑気(のんき)な事を云うのだが、もう少し理性が発達して見ろ、保険の必要を感ずるに至るのは当前(あたりまえ)だ。ぜひ来月から這入るんだ」

「そう、それじゃ仕方がない。だけどこないだのように蝙蝠傘(こうもり)を買って下さる御金があるなら、保険に這入る方がましかも知れないわ。ひとがいりません、いりませんと云うのを無理に買って下さるんですもの」

「そんなにいらなかったのか?」

「ええ、蝙蝠傘なんか欲しかないわ」

「そんなら還(かえ)すがいい。ちょうどとん子が欲しがってるから、あれをこっちへ廻してやろう。今日持って来たか」

「あら、そりゃ、あんまりだわ。だって苛(ひど)いじゃありませんか、せっかく買って下すっておきながら、還せなんて」

「いらないと云うから、還せと云うのさ。ちっとも苛くはない」

「いらない事はいらないんですけれども、苛いわ」

「分らん事を言う奴だな。いらないと云うから還せと云うのに苛い事があるものか」

「だって」

「だって、どうしたんだ」

「だって苛いわ」

「愚(ぐ)だな、同じ事ばかり繰り返している」

「叔父さんだって同じ事ばかり繰り返しているじゃありませんか」

「御前が繰り返すから仕方がないさ。現にいらないと云ったじゃないか」

「そりゃ云いましたわ。いらない事はいらないんですけれども、還すのは厭(いや)ですもの」

「驚ろいたな。没分暁(わからずや)で強情なんだから仕方がない。御前の学校じゃ論理学を教えないのか」

「よくってよ、どうせ無教育なんですから、何とでもおっしゃい。人のものを還せだなんて、他人だってそんな不人情な事は云やしない。ちっと馬鹿竹(ばかたけ)の真似でもなさい」

「何の真似をしろ?」

「ちと正直に淡泊(たんぱく)になさいと云うんです」

「お前は愚物の癖にやに強情だよ。それだから落第するんだ」

「落第したって叔父さんに学資は出して貰やしないわ」





十 … 14

...
雪江さんは言(げん)ここに至って感に堪(た)えざるもののごとく、潸然(さんぜん)として一掬(いっきく)の涙(なんだ)を紫の袴(はかま)の上に落した。主人は茫乎(ぼうこ)として、その涙がいかなる心理作用に起因するかを研究するもののごとく、袴の上と、俯(う)つ向いた雪江さんの顔を見つめていた。ところへ御三(おさん)が台所から赤い手を敷居越に揃(そろ)えて「お客さまがいらっしゃいました」と云う。「誰が来たんだ」と主人が聞くと「学校の生徒さんでございます」と御三は雪江さんの泣顔を横目に睨(にら)めながら答えた。主人は客間へ出て行く。吾輩も種取り兼(けん)人間研究のため、主人に尾(び)して忍びやかに椽(えん)へ廻った。人間を研究するには何か波瀾がある時を択(えら)ばないと一向(いっこう)結果が出て来ない。平生は大方の人が大方の人であるから、見ても聞いても張合のないくらい平凡である。しかしいざとなるとこの平凡が急に霊妙なる神秘的作用のためにむくむくと持ち上がって奇なもの、変なもの、妙なもの、異(い)なもの、一と口に云えば吾輩猫共から見てすこぶる後学になるような事件が至るところに横風(おうふう)にあらわれてくる。雪江さんの紅涙(こうるい)のごときはまさしくその現象の一つである。かくのごとく不可思議、不可測(ふかそく)の心を有している雪江さんも、細君と話をしているうちはさほどとも思わなかったが、主人が帰ってきて油壺を抛(ほう)り出すやいなや、たちまち死竜(しりゅう)に蒸汽喞筒(じょうきポンプ)を注ぎかけたるごとく、勃然(ぼつぜん)としてその深奥(しんおう)にして窺知(きち)すべからざる、巧妙なる、美妙なる、奇妙なる、霊妙なる、麗伲颉⑾荬猡胜k揚し了(おわ)った。しかしてその麗伲咸煜陇闻裕à摔绀筏绀Γ─斯餐à胜臌愘|である。ただ惜しい事には容易にあらわれて来ない。否(いや)あらわれる事は二六時中間断なくあらわれているが、かくのごとく顕著に灼然炳乎(しゃくぜんへいこ)として遠懀Г胜悉ⅳ椁铯欷评搐胜ぁP窑摔筏浦魅摔韦瑜Δ宋彷叅蚊颏浃浃趣猡工毪饶妞丹藫幔à剩─扦郡胄à膜啶袱蓼─辘纹嫣丶遥à嗓─盲郡椤ⅳ肟裱预鈷呉姢隼搐郡韦扦ⅳ恧ΑV魅摔韦ⅳ趣丹à膜い皮ⅳ毪堡小ⅳ嗓长匦肖盲皮馕杼à我壅撙衔嶂椁簞婴讼噙‘ない。面白い男を旦那様に戴(いただ)いて、短かい猫の命のうちにも、大分(だいぶ)多くの経験が出来る。ありがたい事だ。今度のお客は何者であろう。

見ると年頃は十七八、雪江さんと追(お)っつ、返(か)っつの書生である。大きな頭を地(じ)の隙(す)いて見えるほど刈り込んで団子(だんご)っ鼻(ぱな)を顔の真中にかためて、座敷の隅の方に控(ひか)えている。別にこれと云う特徴もないが頭蓋骨(ずがいこつ)だけはすこぶる大きい。青坊主に刈ってさえ、ああ大きく見えるのだから、主人のように長く延ばしたら定めし人目を惹(ひ)く事だろう。こんな顔にかぎって学問はあまり出来ない者だとは、かねてより主人の持説である。事実はそうかも知れないがちょっと見るとナポレオンのようですこぶる偉観である。着物は通例の書生のごとく、薩摩絣(さつまがすり)か、久留米(くるめ)がすりかまた伊予(いよ)絣か分らないが、ともかくも絣(かすり)と名づけられたる袷(あわせ)を袖短かに着こなして、下には襯衣(シャツ)も襦袢(じゅばん)もないようだ。素袷(すあわせ)や素足(すあし)は意気なものだそうだが、この男のはなはだむさ苦しい感じを与える。ことに畳の上に泥棒のような親指を歴然と三つまで印(いん)しているのは全く素足の責任に相摺胜ぁ1摔纤膜哪郡巫阚Eの上へちゃんと坐って、さも窮屈そうに畏(か)しこまっている。一体かしこまるべきものがおとなしく控(ひか)えるのは別段気にするにも及ばんが、毬栗頭(いがぐりあたま)のつんつるてんの乱暴者が恐縮しているところは何となく不眨亭胜猡韦馈M局肖窍壬朔辘盲皮丹ɡ瘠颏筏胜い韦蜃月摔工毪椁い芜B中が、たとい三十分でも人並に坐るのは苦しいに摺胜ぁ¥趣长恧蛏斓盲乒еt(きょうけん)の君子、盛徳の長者(ちょうしゃ)であるかのごとく構えるのだから、当人の苦しいにかかわらず傍(はた)から見ると大分(だいぶ)おかしいのである。教場もしくは邉訄訾扦ⅳ螭胜蓑X々しいものが、どうしてかように自己を箝束(かんそく)する力を具(そな)えているかと思うと、憐れにもあるが滑稽(こっけい)でもある。こうやって一人ずつ相対(あいたい)になると、いかに愚 (ぐがい)なる主人といえども生徒に対して幾分かの重みがあるように思われる。主人も定めし得意であろう。塵(ちり)積って山をなすと云うから、微々たる一生徒も多勢(たぜい)が聚合(しゅうごう)すると侮(あなど)るべからざる団体となって、排斥(はいせき)邉婴浈攻去楗ぅ颏筏扦工庵欷胜ぁ¥长欷悉沥绀Δ梢懿≌撙皮蝻嫟螭谴蟮à摔胜毪瑜Δ尸F象であろう。肖蝾mんで騒ぎ出すのは、人の気に酔っ払った結果、正気を取り落したるものと認めて差支(さしつか)えあるまい。それでなければかように恐れ入ると云わんよりむしろ悄然(しょうぜん)として、自(みずか)ら遥à栅工蓿─搜氦犯钉堡椁欷皮い毪椁い仕_摩絣が、いかに老朽だと云って、苟(かりそ)めにも先生と名のつく主人を軽蔑(けいべつ)しようがない。馬鹿に出来る訳がない。

.。



十 … 15

 生小说_网 
主人は座布団(ざぶとん)を押しやりながら、「さあお敷き」と云ったが毬栗先生はかたくなったまま「へえ」と云って動かない。鼻の先に剥(は)げかかった更紗(さらさ)の座布団が「御仱螭胜丹ぁ工趣夂韦趣庠皮铯氦俗畔筏皮い脶幔àΔ罚─恧恕⑸看箢^がつくねんと着席しているのは妙なものだ。布団は仱毪郡幛尾紘猡且娫懁幛毪郡幛思毦瑒峁訾槭巳毪欷评搐郡韦扦悉胜ぁ2紘猡摔筏品螭欷氦螭小⒉紘猡悉蓼丹筏饯蚊驓p(きそん)せられたるもので、これを勧めたる主人もまた幾分か顔が立たない事になる。主人の顔を潰(つぶ)してまで、布団と睨(にら)めくらをしている毬栗君は決して布団その物が嫌(きらい)なのではない。実を云うと、正式に坐った事は祖父(じい)さんの法事の時のほかは生れてから滅多(めった)にないので、先(さ)っきからすでにしびれが切れかかって少々足の先は困難を訴えているのである。それにもかかわらず敷かない。布団が手持無沙汰に控(ひか)えているにもかかわらず敷かない。主人がさあお敷きと云うのに敷かない。厄介な毬栗坊主だ。このくらい遠懀Г工毪胜槎嗳耸à郡摔螭海┘蓼盲繒rもう少し遠懀Г工欷肖いい韦恕⒀¥扦猡ι伽愤h懀Г工欷肖いい韦恕⑾滤尬荬扦猡ι伽愤h懀Г工欷肖いい韦恕¥工蓼袱趣长恧貧菁妫à停─颏筏啤ⅳ工伽瓡rには謙遜(けんそん)しない、否大(おおい)に狼藉(ろうぜき)を働らく。たちの悪るい毬栗坊主だ。

ところへ後(うし)ろの遥à栅工蓿─颏工Δ乳_けて、雪江さんが一碗の茶を恭(うやうや)しく坊主に供した。平生なら、そらサヴェジ·チ訾郡壤洌à遥─浃工韦坤⒅魅艘蝗摔藢潳筏皮工橥搐呷耄àぃ─盲皮い肷悉亍⒚铨hの女性(にょしょう)が学校で覚え立ての小笠原流(おがさわらりゅう)で、乙(おつ)に気取った手つきをして茶碗を突きつけたのだから、坊主は大(おおい)に苦悶(くもん)の体(てい)に見える。雪江さんは遥à栅工蓿─颏筏幛霑rに後ろからにやにやと笑った。して見ると女は同年輩でもなかなかえらいものだ。坊主に比すれば遥(はる)かに度胸が据(す)わっている。ことに先刻(さっき)の無念にはらはらと流した一滴の紅涙(こうるい)のあとだから、このにやにやがさらに目立って見えた。

雪江さんの引き込んだあとは、双方無言のまま、しばらくの間は辛防(しんぼう)していたが、これでは業(ぎょう)をするようなものだと気がついた主人はようやく口を開いた。

「君は何とか云ったけな」

「古井(ふるい)……」

「古井? 古井何とかだね。名は」

「古井武右衛門(ぶえもん)」

「古井武右衛門――なるほど、だいぶ長い名だな。今の名じゃない、昔の名だ。四年生だったね」

「いいえ」

小提示:按 回车 [Enter] 键 返回书目,按 ← 键 返回上一页, 按 → 键 进入下一页。 赞一下 添加书签加入书架