《吾輩は猫である》

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吾輩は猫である- 第62部分


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たて)の飯を、御櫃(おはち)に移して、今や七輪(しちりん)にかけた鍋(なべ)の中をかきまぜつつある。釜(かま)の周囲には沸(わ)き上がって流れだした米の汁が、かさかさに幾条(いくすじ)となくこびりついて、あるものは吉野紙を貼(は)りつけたごとくに見える。もう飯も汁も出来ているのだから食わせてもよさそうなものだと思った。こんな時に遠懀Г工毪韦悉膜蓼椁胜ぴ挙馈ⅳ瑜筏螭凶苑证瓮à辘摔胜椁胜盲郡盲圃─菗pは行かないのだから、思い切って朝飯の催促をしてやろう、いくら居候(いそうろう)の身分だってひもじいに変りはない。と考え定めた吾輩はにゃあにゃあと甘えるごとく、訴うるがごとく、あるいはまた怨(えん)ずるがごとく泣いて見た。御三はいっこう顧みる景色(けしき)がない。生れついてのお多角(たかく)だから人情に疎(うと)いのはとうから承知の上だが、そこをうまく泣き立てて同情を起させるのが、こっちの手際(てぎわ)である。今度はにゃごにゃごとやって見た。その泣き声は吾ながら悲壮の音(おん)を帯びて天涯(てんがい)の撸ё樱à妞Δ罚─颏筏贫夏cの思あらしむるに足ると信ずる。御三は恬(てん)として顧(かえり)みない。この女は聾(つんぼ)なのかも知れない。聾では下女が勤まる訳(わけ)がないが、ことによると猫の声だけには聾なのだろう。世の中には色盲(しきもう)というのがあって、当人は完全な視力を具えているつもりでも、医者から云わせると片輪(かたわ)だそうだが、この御三は声盲(せいもう)なのだろう。声盲だって片輪に摺い胜ぁF啢韦护摔い浃撕犸L(おうふう)なものだ。夜中なぞでも、いくらこっちが用があるから開けてくれろと云っても決して開けてくれた事がない。たまに出してくれたと思うと今度はどうしても入れてくれない。夏だって夜露は毒だ。いわんや霜(しも)においてをやで、軒下に立ち明かして、日の出を待つのは、どんなに辛(つら)いかとうてい想像が出来るものではない。この間しめ出しを食った時なぞは野良犬の襲撃を蒙(こうむ)って、すでに危うく見えたところを、ようやくの事で物置の家根(やね)へかけ上(あが)って、終夜顫(ふる)えつづけた事さえある。これ等は皆御三の不人情から胚胎(はいたい)した不都合である。こんなものを相手にして鳴いて見せたって、感応(かんのう)のあるはずはないのだが、そこが、ひもじい時の神頼み、貧のぬすみに恋のふみと云うくらいだから、たいていの事ならやる気になる。にゃごおうにゃごおうと三度目には、注意を喚起するためにことさらに眩jなる泣き方をして見た。自分ではベトヴェンのシンフォニ摔饬婴椁钉朊烂瞍我簦à螅─却_信しているのだが御三には何等の影響も生じないようだ。御三は突然膝をついて、揚げ板を一枚はね除(の)けて、中から堅炭の四寸ばかり長いのを一本つかみ出した。それからその長い奴を七輪(しちりん)の角でぽんぽんと敲(たた)いたら、長いのが三つほどに砕けて近所は炭の粉で真胜盲俊I佟─现沃肖丐膺@入(はい)ったらしい。御三はそんな事に頓着する女ではない。直ちにくだけたる三個の炭を鍋(なべ)の尻から七輪の中へ押し込んだ。とうてい吾輩のシンフォニ摔隙騼Aけそうにもない。仕方がないから悄然(しょうぜん)と茶の間の方へ引きかえそうとして風呂場の横を通り過ぎると、ここは今女の子が三人で顔を洗ってる最中で、なかなか繁昌(はんじょう)している。

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十 … 2

/小。说+
顔を洗うと云ったところで、上の二人が幼稚園の生徒で、三番目は姉の尻についてさえ行かれないくらい小さいのだから、正式に顔が洗えて、器用に御化粧が出来るはずがない。一番小さいのがバケツの中から濡(ぬ)れ雑巾(ぞうきん)を引きずり出してしきりに顔中撫(な)で廻わしている。雑巾で顔を洗うのは定めし心持ちがわるかろうけれども、地震がゆるたびにおもちろいわと云う子だからこのくらいの事はあっても驚ろくに足らん。ことによると八木独仙君より悟っているかも知れない。さすがに長女は長女だけに、姉をもって自(みずか)ら任じているから、うがい茶碗をからからかんと抛出(ほうりだ)して「坊やちゃん、それは雑巾よ」と雑巾をとりにかかる。坊やちゃんもなかなか自信家だから容易に姉の云う事なんか聞きそうにしない。「いや琛ⅳ肖帧工仍皮い胜殡j巾を引っ張り返した。このばぶなる語はいかなる意義で、いかなる語源を有しているか、誰も知ってるものがない。ただこの坊やちゃんが癇癪(かんしゃく)を起した時に折々ご使用になるばかりだ。雑巾はこの時姉の手と、坊やちゃんの手で左右に引っ張られるから、水を含んだ真中からぽたぽた雫(しずく)が垂(た)れて、容赦なく坊やの足にかかる、足だけなら我慢するが膝のあたりがしたたか濡れる。坊やはこれでも元禄(げんろく)を着ているのである。元禄とは何の事だとだんだん聞いて見ると、中形(ちゅうがた)の模様なら何でも元禄だそうだ。一体だれに教わって来たものか分らない。「坊やちゃん、元禄が濡れるから御よしなさい、ね」と姉が洒落(しゃ)れた事を云う。その癖(くせ)この姉はついこの間まで元禄と双六(すごろく)とを間摺à皮い课镒R(ものし)りである。

元禄で思い出したからついでに喋舌(しゃべ)ってしまうが、この子供の言葉ちがいをやる事は夥(おびただ)しいもので、折々人を馬鹿にしたような間摺蛟皮盲皮搿;鹗陇侨祝à韦常─wんで来たり、御茶(おちゃ)の味噌(みそ)の女学校へ行ったり、悾仁伲àà婴梗⑻ㄋà坤い嗓常─葋Kべたり、或る時などは「わたしゃ藁店(わらだな)の子じゃないわ」と云うから、よくよく聞き糺(ただ)して見ると裏店(うらだな)と藁店を混同していたりする。主人はこんな間摺蚵劋郡婴诵Δ盲皮い毪⒆苑证¥爻訾朴⒄Zを教える時などは、これよりも滑稽な铡嚕à搐婴澶Γ─蛘婷婺郡摔胜盲啤⑸饯寺劋护毪韦坤恧Α

坊やは――当人は坊やとは云わない。いつでも坊ばと云う――元禄が濡れたのを見て「元(げん)どこがべたい」と云って泣き出した。元禄が冷たくては大変だから、御三が台所から飛び出して来て、雑巾を取上げて着物を拭(ふ)いてやる。この騒動中比較的静かであったのは、次女のすん子嬢である。すん子嬢は向うむきになって棚の上からころがり落ちた、お白粉(しろい)の瓶(びん)をあけて、しきりに御化粧を施(ほどこ)している。第一に突っ込んだ指をもって鼻の頭をキュ葥幔à剩─扦郡楦w(たて)に一本白い筋が通って、鼻のありかがいささか分明(ぶんみょう)になって来た。次に塗りつけた指を転じて睿Г紊悉蚰Σ沥筏郡椤ⅳ饯长丐猡盲皮啤ⅳ长欷蓼堪驻い郡蓼辘隼瓷悉盲俊¥长欷坤弊帮棨趣趣韦盲郡趣长恧亍⑾屡悉い盲评搐品护肖巫盼铯蚴盲い郡膜い扦恕ⅳ工笞婴晤啢猡栅い皮筏蓼盲俊¥工笞婴仙佟┎粶氦翁澹à皮ぃ─艘姢à俊

吾輩はこの光景を横に見て、茶の間から主人の寝室まで来てもう起きたかとひそかに様子をうかがって見ると、主人の頭がどこにも見えない。その代り十文半(ともんはん)の甲の高い足が、夜具の裾(すそ)から一本食(は)み出している。頭が出ていては起こされる時に迷惑だと思って、かくもぐり込んだのであろう。亀の子のような男である。ところへ書斎の掃除をしてしまった妻君がまた箒(ほうき)とはたきを担(かつ)いでやってくる。最前(さいぜん)のように遥à栅工蓿─稳肟冥

「まだお起きにならないのですか」と声をかけたまま、しばらく立って、首の出ない夜具を見つめていた。今度も返事がない。細君は入口から二歩(ふたあし)ばかり進んで、箒をとんと突きながら「まだなんですか、あなた」と重ねて返事を承わる。この時主人はすでに目が覚(さ)めている。覚めているから、細君の襲撃にそなうるため、あらかじめ夜具の中に首もろとも立て唬à长猓─盲郡韦扦ⅳ搿J驻丹ǔ訾丹胜堡欷小⒁娞樱à撙韦─筏皮欷胧陇猡ⅳ恧Δ取⒃懁蓼椁胜な陇蝾mみにして寝ていたところ、なかなか許しそうもない。しかし第一回の声は敷居の上で、少くとも一間の間隔があったから、まず安心と腹のうちで思っていると、とんと突いた箒が何でも三尺くらいの距離に追っていたにはちょっと驚ろいた。のみならず第二の「まだなんですか、あなた」が距離においても音量においても前よりも倍以上の勢を以て夜具のなかまで聞えたから、こいつは駄目だと覚悟をして、小さな声でうんと返事をした。





十 … 3

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「九時までにいらっしゃるのでしょう。早くなさらないと間に合いませんよ」

「そんなに言わなくても今起きる」と夜着(よぎ)の袖口(そでぐち)から答えたのは奇観である。妻君はいつでもこの手を食って、起きるかと思って安心していると、また寝込まれつけているから、油断は出来ないと「さあお起きなさい」とせめ立てる。起きると云うのに、なお起きろと責めるのは気に食わんものだ。主人のごとき我儘者(わがままもの)にはなお気に食わん。ここにおいてか主人は今まで頭から被(かぶ)っていた夜着を一度に跳(は)ねのけた。見ると大きな眼を二つとも開(あ)いている。

「何だ騒々しい。起きると云えば起きるのだ」

「起きるとおっしゃってもお起きなさらんじゃありませんか」

「誰がいつ、そんな嘘(うそ)をついた」

「いつでもですわ」

「馬鹿を云え」

「どっちが馬鹿だか分りゃしない」と妻君ぷんとして箒を突いて枕元に立っているところは勇ましかった。この時裏の車屋の子供、八っちゃんが急に大きな声をしてワ绕訾埂0摔盲沥悚螭现魅摔à常─瓿訾筏丹à工欷斜丐浩訾工伽④囄荬韦撙丹螭槊激椁欷毪韦扦ⅳ搿¥撙丹螭现魅摔毪郡螭婴税摔盲沥悚螭蚱筏菩∏玻à长扭ぃ─摔胜毪庵欷螭摔盲沥悚螭长饯いっ曰螭馈¥长螭视à栅恚─虺证盲郡钺岢闀姢蓼瞧à筏似い皮い胜皮悉胜椁胜ぁI伽筏悉长无xの事情を察して主人も少々怒るのを差し控(ひか)えてやったら、八っちゃんの寿命が少しは延びるだろうに、いくら金田君から頼まれたって、こんな愚(ぐ)な事をするのは、天道公平君よりもはげしくおいでになっている方だと鑑定してもよかろう。怒るたんびに泣かせられるだけなら、まだ余裕もあるけれども、金田君が近所のゴロツキを傭(やと)って今戸焼(いまどやき)をきめ込むたびに、八っちゃんは泣かねばならんのである。主人が怒るか怒らぬか、まだ判然しないうちから、必ず怒るべきものと予想して、早手廻しに八っちゃんは泣いているのである。こうなると主人が八っちゃんだか、八っちゃんが主人だか判然しなくなる。主人にあてつけるに手数(てすう)は掛らない、ちょっと八っちゃんに剣突(けんつく)を食わせれば何の苦もなく、主人の横(よこ)っ面(つら)を張った訳になる。昔(むか)し西洋で犯罪者を所刑にする時に、本人が国境外に逃亡して、捕(とら)えられん時は、偶像をつくって人間の代りに火(ひ)あぶりにしたと云うが、彼等のうちにも西洋の故事に通暁(つうぎょう)する軍師があると見えて、うまい計略を授けたものである。落雲館と云い、八っちゃんの御袋と云い、腕のきかぬ主人にとっては定めし苦手(にがて)であろう。その
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