《吾輩は猫である》

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吾輩は猫である- 第52部分


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「誰でも構わんから呼んで来いと云うのに、わからんか。校長でも幹事でも教頭でも……」

「あの校長さんを……」下女は校長と云う言葉だけしか知らないのである。

「校長でも、幹事でも教頭でもと云っているのにわからんか」

「誰もおりませんでしたら小使でもよろしゅうございますか」

「馬鹿を云え。小使などに何が分かるものか」

ここに至って下女もやむを得んと心得たものか、「へえ」と云って出て行った。使の主意はやはり飲み込めんのである。小使でも引張って来はせんかと心配していると、あに計らんや例の倫理の先生が表門から仱贽zんで来た。平然と座に就(つ)くを待ち受けた主人は直ちに談判にとりかかる。

「ただ今邸内にこの者共が乱入致して……」と忠臣蔵のような古風な言葉を使ったが「本当に御校(おんこう)の生徒でしょうか」と少々皮肉に語尾を切った。

倫理の先生は別段驚いた様子もなく、平気で庭前にならんでいる勇士を一通り見廻わした上、もとのごとく瞳(ひとみ)を主人の方にかえして、下(しも)のごとく答えた。

「さようみんな学校の生徒であります。こんな事のないように始終訓戒を加えておきますが……どうも困ったもので……なぜ君等は垣などを仱暝饯工韦

さすがに生徒は生徒である、倫理の先生に向っては一言(いちごん)もないと見えて何とも云うものはない。おとなしく庭の隅にかたまって羊の群(むれ)が雪に逢ったように控(ひか)えている。

「丸(たま)が這入(はい)るのも仕方がないでしょう。こうして学校の隣りに住んでいる以上は、時々はボ毪怙wんで来ましょう。しかし……あまり乱暴ですからな。仮令(たとい)垣を仱暝饯à毪摔筏皮庵欷胜い胜い瑜Δ恕ⅳ饯盲仁挨盲菩肖胜椤ⅳ蓼揽臂亭韦筏瑜Δ猡ⅳ辘蓼工

「ごもっともで、よく注意は致しますが何分多人数(たにんず)の事で……よくこれから注意をせんといかんぜ。もしボ毪wんだら表から廻って、御断りをして取らなければいかん。いいか。――広い学校の事ですからどうも世話ばかりやけて仕方がないです。で邉婴辖逃媳匾胜猡韦扦ⅳ辘蓼工椤ⅳ嗓Δ猡长欷蚪氦朐Uには参りかねるので。これを許すとつい御迷惑になるような事が出来ますが、これは是非御容赦を願いたいと思います。その代り向後(こうご)はきっと表門から廻って御断りを致した上で取らせますから」

「いや、そう事が分かればよろしいです。球(たま)はいくら御投げになっても差支(さしつか)えはないです。表からきてちょっと断わって下されば構いません。ではこの生徒はあなたに御引き渡し申しますからお連れ帰りを願います。いやわざわざ御呼び立て申して恐縮です」と主人は例によって例のごとく竜頭蛇尾(りゅうとうだび)の挨拶をする。倫理の先生は丹波の笹山を連れて表門から落雲館へ引き上げる。吾輩のいわゆる大事件はこれで一とまず落着を告げた。何のそれが大事件かと笑うなら、笑うがいい。そんな人には大事件でないまでだ。吾輩は主人の大事件を写したので、そんな人の大事件を記(しる)したのではない。尻が切れて強弩(きょうど)の末勢(ばっせい)だなどと悪口するものがあるなら、これが主人の特色である事を記憶して貰いたい。主人が滑稽文の材料になるのもまたこの特色に存する事を記憶して貰いたい。十四五の小供を相手にするのは馬鹿だと云うなら吾輩も馬鹿に相摺胜い韧猡工搿¥坤榇箢鹪陇现魅摔颏膜椁蓼à莆矗àい蓿─乐蓺荩à沥─蛎猡欷氦仍皮Δ皮い搿

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八 … 9


吾輩はすでに小事件を叙し了(おわ)り、今また大事件を述べ了ったから、これより大事件の後(あと)に起る余瀾(よらん)を描(えが)き出だして、全篇の結びを付けるつもりである。すべて吾輩のかく事は、口から出任(でまか)せのいい加減と思う読者もあるかも知れないが決してそんな軽率な猫ではない。一字一句の裏(うち)に宇宙の一大哲理を包含するは無論の事、その一字一句が層々(そうそう)連続すると首尾相応じ前後相照らして、瑣談繊話(さだんせんわ)と思ってうっかりと読んでいたものが忽然(こつぜん)豹変(ひょうへん)して容易ならざる法語となるんだから、決して寝ころんだり、足を出して五行ごとに一度に読むのだなどと云う無礼を演じてはいけない。柳宗元(りゅうそうげん)は韓退之(かんたいし)の文を読むごとに薔薇(しょうび)の水(みず)で手を清めたと云うくらいだから、吾輩の文に対してもせめて自腹(じばら)で雑誌を買って来て、友人の御余りを借りて間に合わすと云う不始末だけはない事に致したい。これから述べるのは、吾輩自(みずか)ら余瀾と号するのだけれど、余瀾ならどうせつまらんに極(きま)っている、読まんでもよかろうなどと思うと飛んだ後悔をする。是非しまいまで精読しなくてはいかん。

大事件のあった翌日、吾輩はちょっと散歩がしたくなったから表へ出た。すると向う横町へ曲がろうと云う角で金田の旦那と鈴木の藤(とう)さんがしきりに立ちながら話をしている。金田君は車で自宅(うち)へ帰るところ、鈴木君は金田君の留守を訪問して引き返す途中で両人(ふたり)がばったりと出逢ったのである。近来は金田の邸内も珍らしくなくなったから、滅多(めった)にあちらの方角へは足が向かなかったが、こう御目に懸って見ると、何となく御懐(おなつ)かしい。鈴木にも久々(ひさびさ)だから余所(よそ)ながら拝顔の栄を得ておこう。こう決心してのそのそ御両君の佇立(ちょりつ)しておらるる傍(そば)近く歩み寄って見ると、自然両君の談話が耳に入(い)る。これは吾輩の罪ではない。先方が話しているのがわるいのだ。金田君は探偵さえ付けて主人の動静を窺(うか)がうくらいの程度の良心を有している男だから、吾輩が偶然君の談話を拝聴したって怒(おこ)らるる気遣(きづかい)はあるまい。もし怒られたら君は公平と云う意味を御承知ないのである。とにかく吾輩は両君の談話を聞いたのである。聞きたくて聴いたのではない。聞きたくもないのに談話の方で吾輩の耳の中へ飛び込んで来たのである。

「只今御宅へ伺いましたところで、ちょうどよい所で御目にかかりました」と藤(とう)さんは鄭寧(ていねい)に頭をぴょこつかせる。

「うむ、そうかえ。実はこないだから、君にちょっと逢いたいと思っていたがね。それはよかった」

「へえ、それは好都合でございました。何かご用で」

「いや何、大した事でもないのさ。どうでもいいんだが、君でないと出来ない事なんだ」

「私に出来る事なら何でもやりましょう。どんな事で」

「ええ、そう……」と考えている。

「何なら、御都合のとき出直して伺いましょう。いつが宜(よろ)しゅう、ございますか」

「なあに、そんな大した事じゃ無いのさ。――それじゃせっかくだから頼もうか」

「どうか御遠懀Г胜

「あの変人ね。そら君の旧友さ。苦沙弥とか何とか云うじゃないか」

「ええ苦沙弥がどうかしましたか」

「いえ、どうもせんがね。あの事件以来胸糞(むなくそ)がわるくってね」

「ごもっともで、全く苦沙弥は剛慢ですから……少しは自分の社会上の地位を考えているといいのですけれども、まるで一人天下ですから」

「そこさ。金に頭はさげん、実業家なんぞ――とか何とか、いろいろ小生意気な事を云うから、そんなら実業家の腕前を見せてやろう、と思ってね。こないだから大分(だいぶ)弱らしているんだが、やっぱり頑張(がんば)っているんだ。どうも剛情な奴だ。驚ろいたよ」

「どうも損得と云う観念の乏(とぼ)しい奴ですから無暗(むやみ)に痩我慢を張るんでしょう。昔からああ云う癖のある男で、つまり自分の損になる事に気が付かないんですから度(ど)し難(がた)いです」

「あはははほんとに度(ど)し難(がた)い。いろいろ手を易(か)え品を易(か)えてやって見るんだがね。とうとうしまいに学校の生徒にやらした」

「そいつは妙案ですな。利目(ききめ)がございましたか」

「これにゃあ、奴も大分(だいぶ)困ったようだ。もう遠からず落城するに極(きま)っている」

「そりゃ結構です。いくら威張っても多勢(たぜい)に無勢(ぶぜい)ですからな」

「そうさ、一人じゃあ仕方がねえ。それで大分(だいぶ)弱ったようだが、まあどんな様子か君に行って見て来てもらおうと云うのさ」

「はあ、そうですか。なに訳はありません。すぐ行って見ましょう。容子(ようす)は帰りがけに御報知を致す事にして。面白いでしょう、あの頑固(がんこ)なのが意気銷沈(いきしょうちん)しているところは、きっと見物(みもの)ですよ」

「ああ、それじゃ帰りに御寄り、待っているから」

「それでは御免蒙(ごめんこうむ)ります」

おや今度もまた魂胆(こんたん)だ、なるほど実業家の勢力はえらいものだ、石炭の燃殻(もえがら)のような主人を逆上させるのも、苦悶(くもん)の結果主人の頭が蠅滑(はえすべ)りの難所となるのも、その頭がイスキラスと同様の呙岁垼à沥ぃ─毪韦饨詫g業家の勢力である。地球が地軸を廻転するのは何の作用かわからないが、世の中を動かすものはたしかに金である。この金の功力(くりき)を心得て、この金の威光を自由に発摚Г工毪猡韦蠈g業家諸君をおいてほかに一人もない。太陽が無事に枺槌訾啤o事に西へ入るのも全く実業家の御蔭である。今まではわからずやの窮措大(きゅうそだい)の家に養なわれて実業家の御利益(ごりやく)を知らなかったのは、我ながら不覚である。それにしても冥頑不霊(めいがんふれい)の主人も今度は少し悟らずばなるまい。これでも冥頑不霊で押し通す了見だと危(あぶ)ない。主人のもっとも貴重する命があぶない。彼は鈴木君に逢ってどんな挨拶をするのか知らん。その模様で彼の悟り具合も自(おのず)から分明(ぶんみょう)になる。愚図愚図してはおられん、猫だって主人の事だから大(おおい)に心配になる。早々鈴木君をすり抜けて御先へ帰宅する。

 。。



八 … 10

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鈴木君はあいかわらず眨婴韦いつ肖扦ⅳ搿=袢栅辖鹛铯问陇胜嗓悉婴摔獬訾丹胜ぁⅳ筏辘说堡暾希à丹铮─辘韦胜な篱g話を面白そうにしている。

「君少し顔色が悪いようだぜ、どうかしやせんか」

「別にどこも何ともないさ」

「でも蒼(あお)いぜ、用心せんといかんよ。時候がわるいからね。よるは安眠が出来るかね」

「うん」

「何か心配でもありゃしないか、僕に出来る事なら何でもするぜ。遠懀Г胜皮そoえ」

「心配って、何を?」

「いえ、なければいいが、もしあればと云う事さ。心配が一番毒だからな。世の中は笑って面白く暮すのが得だよ。どうも君はあまり陰気過ぎるようだ」

「笑うのも毒だからな。無暗に笑うと死ぬ事があるぜ」

「冗談(じょうだん)云っちゃいけない。笑う門(かど)には福来(きた)るさ」

「昔(むか)し希臘(ギリシャ)にクリシッパスと云う哲学者があったが、君は知るまい」

「知らない。それがどうしたのさ」

「その男が笑い過ぎて死んだんだ」

「へえⅳ饯い膜喜凰甲hだね、しかしそりゃ昔の事だか
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