、うんそうだと豁然大悟(かつぜんたいご)して、それから早速長い髪を切って男の着物をきて hierophilus の講義をききに行った。首尾よく講義をきき終(おお)せて、もう大丈夫と云うところでもって、いよいよ産婆を開業した。ところが、奥さん流行(はや)りましたね。あちらでもおぎゃあと生れるこちらでもおぎゃあと生れる。それがみんな agnodice の世話なんだから大変儲(もう)かった。ところが人間万事塞翁(さいおう)の馬、七転(ななころ)び八起(やお)き、弱り目に祟(たた)り目で、ついこの秘密が露見に及んでついに御上(おかみ)の御法度(ごはっと)を破ったと云うところで、重き御仕置(しおき)に仰せつけられそうになりました」「まるで講釈見たようです事」「なかなか旨(うま)いでしょう。ところが亜典(アテン)の女連が一同連署して嘆願に及んだから、時の御奉行もそう木で鼻を括(くく)ったような挨拶も出来ず、ついに当人は無罪放免、これからはたとい女たりとも産婆営業勝手たるべき事と云う御布令(おふれ)さえ出てめでたく落着を告げました」「よくいろいろな事を知っていらっしゃるのね、感心ねえ」「ええ大概の事は知っていますよ。知らないのは自分の馬鹿な事くらいなものです。しかしそれも薄々は知ってます」「ホホホホ面白い事ばかり……」と細君相形(そうごう)を崩して笑っていると、格子戸(こうしど)のベルが相変らず着けた時と同じような音を出して鳴る。「おやまた御客様だ」と細君は茶の間へ引き下がる。細君と入れ摺い俗螭剡@入(はい)って来たものは誰かと思ったらご存じの越智枺L(おちとうふう)君であった。
六 … 8
ここへ枺L君さえくれば、主人の家(うち)へ出入(でいり)する変人はことごとく網羅し尽(つく)したとまで行かずとも、少なくとも吾輩の無聊(ぶりょう)を慰むるに足るほどの頭数(あたまかず)は御揃(おそろい)になったと云わねばならぬ。これで不足を云っては勿体(もったい)ない。邜櫎毪郅渭窑仫暏铯欷郡钺帷⑸娜碎g中にかかる先生方が一人でもあろうとさえ気が付かずに死んでしまうかも知れない。幸(さいわい)にして苦沙弥先生門下の猫児(びょうじ)となって朝夕(ちょうせき)虎皮(こひ)の前に侍(はん)べるので先生は無論の事迷亭、寒月乃至(ないし)枺Lなどと云う広い枺─摔丹àⅳ蓼昀韦胜ひ或T当千の豪傑連の挙止動作を寝ながら拝見するのは吾輩にとって千載一遇の光栄である。御蔭様でこの暑いのに毛袋でつつまれていると云う難儀も忘れて、面白く半日を消光する事が出来るのは感謝の至りである。どうせこれだけ集まれば只事(ただごと)ではすまない。何か持ち上がるだろうと遥à栅工蓿─侮帳橹敚à膜膜罚─螭菕呉姢工搿
「どうもご無沙汰を致しました。しばらく」と御辞儀をする枺L君の顔を見ると、先日のごとくやはり奇麗に光っている。頭だけで評すると何か緞帳役者(どんちょうやくしゃ)のようにも見えるが、白い小偅à长椋─窝F(はかま)のゴワゴワするのを御苦労にも鹿爪(しかつめ)らしく穿(は)いているところは榊原健吉(さかきばらけんきち)の内弟子としか思えない。従って枺L君の身体で普通の人間らしいところは肩から腰までの間だけである。「いや暑いのに、よく御出掛だね。さあずっと、こっちへ通りたまえ」と迷亭先生は自分の家(うち)らしい挨拶をする。「先生には大分(だいぶ)久しく御目にかかりません」「そうさ、たしかこの春の朗読会ぎりだったね。朗読会と云えば近頃はやはり御盛(おさかん)かね。その後(ご)御宮(おみや)にゃなりませんか。あれは旨(うま)かったよ。僕は大(おおい)に拍手したぜ、君気が付いてたかい」「ええ御蔭で大きに勇気が出まして、とうとうしまいまで漕(こ)ぎつけました」「今度はいつ御催しがありますか」と主人が口を出す。「七八両月(ふたつき)は休んで九月には何か賑(にぎ)やかにやりたいと思っております。何か面白い趣向はございますまいか」「さよう」と主人が気のない返事をする。「枺L君僕の創作を一つやらないか」と今度は寒月君が相手になる。「君の創作なら面白いものだろうが、一体何かね」「脚本さ」と寒月君がなるべく押しを強く出ると、案のごとく、三人はちょっと毒気をぬかれて、申し合せたように本人の顔を見る。「脚本はえらい。喜劇かい悲劇かい」と枺L君が歩を進めると、寒月先生なお澄し返って「なに喜劇でも悲劇でもないさ。近頃は旧劇とか新劇とか大部(だいぶ)やかましいから、僕も一つ新機軸を出して俳劇(はいげき)と云うのを作って見たのさ」「俳劇たどんなものだい」「俳句趣味の劇と云うのを詰めて俳劇の二字にしたのさ」と云うと主人も迷亭も多少煙(けむ)に捲(ま)かれて控(ひか)えている。「それでその趣向と云うのは?」と聞き出したのはやはり枺L君である。「根が俳句趣味からくるのだから、あまり長たらしくって、毒悪なのはよくないと思って一幕物にしておいた」「なるほど」「まず道具立てから話すが、これも極(ごく)簡単なのがいい。舞台の真中へ大きな柳を一本植え付けてね。それからその柳の幹から一本の枝を右の方へヌッと出させて、その枝へ烏(からす)を一羽とまらせる」「烏がじっとしていればいいが」と主人が独(ひと)り言(ごと)のように心配した。「何わけは有りません、烏の足を糸で枝へ俊à筏校─旮钉堡皮螭扦埂¥扦饯蜗陇匦兴拢à绀Δ氦い坤椁ぃ─虺訾筏蓼筏皮汀C廊摔嵯颏摔胜盲剖质盲蚴工盲皮い毪螭扦埂埂袱饯い膜仙伽伐钎昆螭坤汀5谝徽lがその女になるんだい」と迷亭が聞く。「何これもすぐ出来ます。美術学校のモデルを雇ってくるんです」「そりゃ警視庁がやかましく云いそうだな」と主人はまた心配している。「だって興行さえしなければ構わんじゃありませんか。そんな事をとやかく云った日にゃ学校で裸体画の写生なんざ出来っこありません」「しかしあれは稽古のためだから、ただ見ているのとは少し摺Δ琛埂赶壬饯饯螭适陇蛟皮盲咳栅摔先毡兢猡蓼礼j目です。剑坤盲啤⒀輨·坤盲啤ⅳ螭胜杠啃gです」と寒月君大いに気焔(きえん)を吹く。「まあ議論はいいが、それからどうするのだい」と枺L君、ことによると、やる了見(りょうけん)と見えて筋を聞きたがる。「ところへ花道から俳人高浜虚子(たかはまきょし)がステッキを持って、白い灯心(とうしん)入りの帽子を被(かぶ)って、透綾(すきや)の羽織に、薩摩飛白(さつまがすり)の尻端折(しりっぱしょ)りの半靴と云うこしらえで出てくる。着付けは陸軍の御用達(ごようたし)見たようだけれども俳人だからなるべく悠々(ゆうゆう)として腹の中では句案に余念のない体(てい)であるかなくっちゃいけない。それで虚子が花道を行き切っていよいよ本舞台に懸った時、ふと句案の眼をあげて前面を見ると、大きな柳があって、柳の影で白い女が湯を浴びている、はっと思って上を見ると長い柳の枝に烏が一羽とまって女の行水を見下ろしている。そこで虚子先生大(おおい)に俳味に感動したと云う思い入れが五十秒ばかりあって、行水の女に惚れる烏かなと大きな声で一句朗吟するのを合図に、拍子木(ひょうしぎ)を入れて幕を引く。――どうだろう、こう云う趣向は。御気に入りませんかね。君御宮(おみや)になるより虚子になる方がよほどいいぜ」枺L君は何だか物足らぬと云う顔付で「あんまり、あっけないようだ。もう少し人情を加味した事件が欲しいようだ」と真面目に答える。今まで比較的おとなしくしていた迷亭はそういつまでもだまっているような男ではない。「たったそれだけで俳劇はすさまじいね。上田敏(うえだびん)君の説によると俳味とか滑稽とか云うものは消極的で亡国の音(いん)だそうだが、敏君だけあってうまい事を云ったよ。そんなつまらない物をやって見給え。それこそ上田君から笑われるばかりだ。第一劇だか茶番だか何だかあまり消極的で分らないじゃないか。失礼だが寒月君はやはり実験室で珠(たま)を磨いてる方がいい。俳劇なんぞ百作ったって二百作ったって、亡国の音(いん)じゃ駄目だ」寒月君は少々憤(むっ)として、「そんなに消極的でしょうか。私はなかなか積極的なつもりなんですが」どっちでも構わん事を弁解しかける。「虚子がですね。虚子先生が女に惚れる烏かなと烏を捕(とら)えて女に惚れさしたところが大(おおい)に積極的だろうと思います」「こりゃ新説だね。是非御講釈を伺がいましょう」「理学士として考えて見ると烏が女に惚れるなどと云うのは不合理でしょう」「ごもっとも」「その不合理な事を無雑作(むぞうさ)に言い放って少しも無理に聞えません」「そうかしら」と主人が疑った眨婴歉瞍贽zんだが寒月は一向頓着しない。「なぜ無理に聞えないかと云うと、これは心理的に説明するとよく分ります。実を云うと惚れるとか惚れないとか云うのは俳人その人に存する感情で烏とは没交渉の沙汰であります。しかるところあの烏は惚れてるなと感じるのは、つまり烏がどうのこうのと云う訳じゃない、必竟(ひっきょう)自分が惚れているんでさあ。虚子自身が美しい女の行水(ぎょうずい)しているところを見てはっと思う途端にずっと惚れ込んだに相摺胜い扦埂¥丹⒆苑证堡欷垦郅菫酩Δ紊悉莿婴猡筏胜い窍陇蛞姢膜幛皮い毪韦蛞姢郡猡韦坤椤ⅳ悉悉ⅰⅳⅳい膜獍长韧袱韦盲皮毪胜劝B摺à螭沥─い颏筏郡韦扦埂0B摺い摔舷噙‘ないですがそこが文学的でかつ積極的なところなんです。自分だけ感じた事を、断りもなく烏の上に拡張して知らん顔をしてすましているところなんぞは、よほど積極主義じゃありませんか。どうです先生」「なるほど御名論だね、虚子に聞かしたら驚くに摺い胜ぁUh明だけは積極だが、実際あの劇をやられた日には、見物人はたしかに消極になるよ。ねえ枺L君」「へえどうも消極過ぎるように思います」と真面目な顔をして答えた。
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六 … 9
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主人は少々談話の局面を展開して見たくなったと見えて、「どうです、枺Lさん、近頃は傑作もありませんか」と聞くと枺L君は「いえ、別段これと云って御目にかけるほどのものも出来ませんが、近日詩集を出して見ようと思いまして――稿本(こうほん)を幸い持って参りましたから御批評を願いましょう」と懐から紫の袱紗包(ふくさづつみ)を出して、その中から五六十枚ほどの原稿紙の帳面を取り出して、主人の前に置く。主人はもっともらしい顔をして拝見と云って見ると第一頁に
世の人に似ずあえかに見え給う
富子嬢に捧ぐ
と二行にかいてある。主人はちょっと神秘的な顔をしてしばらく一頁を無言のまま眺(なが)めているので、迷亭は横合から「何だい新体詩かね」と云いながら覗(のぞ)き込んで「やあ、捧げたね。枺L君、思い切って富子嬢に捧げたのはえらい」としきりに賞(ほ)める。主人はなお不思議そうに「枺Lさん、この富子と云うのは本当に存在している婦人なのですか」と聞く。「へえ、この前迷亭先生とごいっしょに朗読会へ招待した婦人の一人です。ついこの御近所に住んでおります。実はただ今詩集を見せようと思ってちょっと寄って参りましたが、生憎(あいにく)先月から大磯へ避暑に行って留守でした」と真面目くさって述べる。「苦沙弥君、これが二